アブソリュート・ブルー 6
関東の梅雨入り宣言が発表されたと、朝の天気予報で聞いた。昨日の曇り空はやっぱり雨に変わって、気温も低い。いつもならオフになるはずの月曜の朝だが、仙道は眠い眼をこすりながら学校に向かった。透明なビニール傘に当たる雨粒が大きい。仙道は傘越しに灰色の空をぼんやりと眺めたが、槍のように雨が落ちてくるだけだった。尻ポケットに入れた携帯電話をふいに取り出して、中を見る。朝か夜かも判別がつかないようなこんな天気の中、仙道がきちんと起きているなんて、まさか越野は思ってないだろうに。仙道は訳もなく溜息をつく。
「仙道君!」
陵南高校前の坂を上がっているところで、後から聞き慣れた声がかけられた。
「あれ、岡辺?」
「おはよ」
「はよ。えー、なんで?」
まだ学内は開くか開かないかの早い時間なのに、運動部でもない彼女がどうしてここに居るのだろう。まさか、越野の練習を応援しに来たのだろうかと、仙道は考えられうる理由を頭に思い浮かべた。
「来週、体育祭でしょ? その準備の手伝いなんだ」
「体育祭? ああ…あれ? 岡辺は文実だよな?」
「うん、そうなんだけど…こっちも頼まれちゃって。まあ、暇だからいいんだけどね」
来週、つまり県大会の決勝がある週の木曜日、陵南高校では体育祭がある。仙道は去年、自分が知らず知らずのうちに準備実行委員にさせられてしまっていたことを思い出した。一ヶ月程前から細かい集まりや仕事があり、そのほとんどは体よく越野に任せてしまったが、それでも部活のない月曜日などはパネル作りや何やらを手伝わされた記憶がある。
「あかりちゃんは一緒じゃねえの?」
「え? あかりは、多分まだ寝てると思うよ?」
アハ、と小夜はちょっと笑って、その後なにかを思い出したようすで、ぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「そうそう、あかりね! 昨日も勝ったから、あと一回勝てば全国に行けるんだって!」
「え、うそ、まじで?」
「そう、シングルでね。あたしも見に行ったんだけど…あかり、本当にすごかったんだよ」
小夜は夢見るような顔つきで言った。この子にはこんな表情が実に似合う。
「へえ…すごいな」
「うん…でも、仙道君たちも行けるよ、きっと」
仙道はにこりと笑って軽く頷いてみせた。
「福田君も戻ってきて…よかった」
「うん、本当にそれは言える。正直俺も安心したよ。あいつの攻撃力は、全国でも必要になると思うし」
「だよね!」
同意を得ると、小夜が30センチも上にある仙道の顔を傘の隙間から見上げた。小夜の奥二重の垂れ眼が嬉しそうに輝いている。
「福田君のおかげで、オフェンスの型も広がったもん。仙道君中心に、色んなプレイができるチームだよね!」
「え?」
「越野君と植草君のダブルガードだけでも、攻守のバランスは十分取れてるし…」
「…岡辺、バスケ詳しいんだ?」
仙道がそう言った途端に、小夜の顔の色がピンクを通り越して真っ赤になった。いつかのように手を振って否定しようとしたがその必要がないことに気付いた様子で、そのまま動きという動きが止まる。仙道はそれがおかしくて、噴き出すのをやっとで堪えて右手で緩んだ口元を押さえた。
「…何で赤くなんの」
「え? ご…めん、そうだよね。あたしのリアクション、ちょっとおかしかったね?」
あははは、と小夜が困ったように笑った。そうして顔の紅潮がややおさまると、笑顔のまま口を開く。
「実はねえ、前に好きだった人もバスケやってたんだ。バスケは、だからちょっとだけ勉強したの」
「…え? それ、去年別れた人?」
「うん、幼馴染み…今はもう、連絡も取れなくなっちゃったけどね」
哀れっぽく聞こえないほどの軽口で、小夜が笑った。
「いいじゃん。今はもう、好きな人できたんだからさ」
「うん。そだね」
そう言うと小夜は、ふわりとした笑顔を向けた。色素が薄いためか、薄曇りの朝のなかでも、制服から覗く細い肌が白く映えていた。仙道も自然と笑顔を返して、おう、と言うと、小夜が何かを見つけたように小さく背伸びをする。見ると、体育館とA棟を繋ぐ渡り廊下で、雨を避けるように縮こまりながらも、大きなパネルの色塗りがすでに始められていた。
「あっ、もうやってる!じゃあ、もう行くね。練習頑張れ!」
そう言うと水溜りの上を跳ねるように走って行く。仙道は手を振りながら、格技場の奥の部室へ向かった。この一年、小夜に対してはどちらかと言うと自己主張の薄いイメージを持っていた仙道だったが、あの放課後の告白以来、可憐な見た目には似合わないほどのひたむきさを感じるようになっていた。穏やかな外見に似合わず、存外に意志が強い人間なのかもしれない。それが恋でもスポーツでも、一心にそれに情熱をそそぐ姿というものは、それを見る第三者にも少なからず影響を与えるのだろう。仙道はこの高校のバスケ部に入って、そんな感覚にほとんど初めて出会った。
「いいよなあ…」
と、仙道は、渡り廊下に合流した小夜の小さな後姿を見ながら、ほとんど雨に掻き消えてしまうほどの小声で呟いた。自分にはバスケットがある。これだけには、確固たる自信とそれを裏付ける経験があった。才能やそれを補うに余りある努力、そしてここ一番の度胸も、バスケに必要なものであれば、自分次第で何だって手にできる確信が仙道にはあった。それは驕りではなく、言うなれば、強い意志だ。けれども、仙道が小夜の背中にわずかに羨んだものは、それとは別のものだった。自分ひとりの意志や努力ではとうてい培えない、仙道にとって未知のものだった。仙道にはそれが、ひどく大切で、人間的で、価値のあるものに思えた。たいていの場合、自分には無いと思えるものに限って、人は価値を見出すのだ。仙道にも、それは例外ではない。
着替えて体育館に入ると、一年生と二年生がストレッチを始めていた。本来の朝練の開始時間にも、僅かに早い時刻なのである。まじかよ、と、開口一番にそう叫んだのは、他でもない越野だった。
「お前なに来てんの? 昼休みに怒鳴りに行く予定だったのに!」
「…そう思ってんならメールくらいしてよ」
脱力しながらそう言えばその瞬間、ばん、と大きく背中を平手で打たれていた。いてえ、と呻くと、早朝しては元気の良すぎる声が返って来る。
「一週間、楽しみにしてんぜ!」
そう言う越野は、いつもと全く変わらず、にやりと笑う。うん、と答えた自分の声に、思ったよりも安心が含まれているのにひっそり驚いて、仙道は苦笑した。
「なあ。あかりちゃん勝ったの聞いた?」
「あ、聞いた聞いた! すっげえよあいつ! 昨日の相手、神奈川3位だぜ?」
そう言った越野の仕草は、先ほどの小夜のそれとよく似ていた。
「…それ、岡辺から聞いた?」
「はあ?ふつうに昨日あかりから聞いたよ」
「ふうん。仲いいよなあ、あかりちゃんと」
仙道は煙に巻くように、わざと含蓄を込めて言った。越野はその軽口に平気な顔をして、首を念入りに左右に曲げる。
「まあ、自分でも、俺らすげえ仲いいと思うけどな?」
そう言って首のうしろを右手でカリカリと掻きながら、越野は黙々とストレッチを続ける。
「だよなあ。俺も最初、お前ら付き合ってんだと思ったよ」
「うーん」
越野は何を思い浮かべたのか、目覚まし時計が鳴った瞬間のような顔で眉根を寄せ、少し唸ってまた口を開いた。
「まあ、それが一番いいよな…」
「え…」
「おい、オレのディフェンス練に付き合ってくれ」
仙道が思わず聞き返した瞬間、福田がぬっと現れた。
「越野、今日こそオレを抜いてみせろ」
常に怒ったような表情を浮かべているように見えるのは、この男の仕様なのだろう。仙道は予期せぬ話の中断にちょっと肩をすくめると、福田に笑いかける。
「…福田、お前そんなこと言ってるけど、昨日彦一に抜かれてたよな?」
「抜かせたんだ、あれは。オフェンスの隙をついてボールを奪う攻撃的な守りだぞ」
「どっかの赤髪みてえなこと言うなよ…」
越野が呆れながら、福田と一緒にコートに入った。もう少しで三年生も練習に現れる。越野と話す機会はもうないだろう。仙道はぐるっと肩を回すと、越野の後姿から目の前のバスケットボールに視線を移す。その思いもよらない一言で乱れかけた集中を引き戻すために、ふう、と息を大きくついた。こんな調子で一週間後を迎えてしまったら、さすがの仙道も、三年生に申し訳が立たない。
*
朝練を終えて授業が始まると、昼休みまで仙道と越野が会うことはない。四時間目の授業は古典だったが、仙道は珍しく寝入ることなく終了のベルを聞いた。朝早く起きたというのに眠気のやって来ない自分がもの珍しく、仙道はまたもや内心で驚いた。けれども、この感覚に覚えのないわけではなかった。こんなふうに自分のペースが保ちづらくなっているときには、仙道は決まっていつもぶらりと釣りをしに行くのだった。しかしながら、総当たり戦も近く天気も曇りがちなこれからの一週間で、腰越漁港で釣り糸を垂らす機会があるだろうか。
そんなことを考えながら教師へのポーズ程度で出した古語辞書をしまったところで、後ろから小夜に呼び止められた。
「仙道君」
「ん、もうあっち行く?」
仙道は昼食を買うための小銭を取り出しながら答える。
「あっ…、あのね」
小夜がひよこのような仕草で仙道の前に回って、控えめだが、何かを言おうとしていた。
「うん?」
「今あかりからメールきたんだけど、今日は越野君と二人でご飯食べろって…」
「え?…ああ」
少しの間があったが、合点がいった仙道は軽く頷いた。あかりが気を利かせたのである。
「……ごめんね」
小夜が仙道を見つめて、申し訳なさそうに小さくなった。仙道はその謝罪の意味を分かりかねたが、小夜の仕草に思わずクスリと笑って、首を傾げた。それに安心したのか、小夜もいつもの笑顔になる。
「皆に頼って、なんか情けないね、あたし」
「ああ、だからごめんって? いいじゃん。その笑顔で越野を癒してあげてよ」
「ええ? どんな笑顔?」
「それ、その笑顔だよ」
仙道が小夜の鼻先に指をさすと、小夜が綺麗な白い歯を見せて照れたように笑う。仙道はその笑顔がとても好きだった。微笑むと柳のように目尻が細くなって、ほのりとした優しい印象になるのである。仙道はその笑顔に、ずっと引きつけられるような魅力を感じている。
そのうちに、あかりが一人で仙道を迎えに来た。その手にはすでに仙道の分と思われる大量のパンを持っている。我ながらいい身分だなあ、と仙道は苦笑した。
「何その顔。ほら、行くよ?」
ぐい、と腕を引っ張られて仕方なく、仙道はあかりの後を着いて行った。
「あの二人うまくいくかなあ…」
二人はランチスペースに移動していた。窓は開いているが、外からは湿り気を帯びた空気が入り込んでいる。あかりもそれに合わせるようなアンニュイな声で呟いた。
「……」
「なあに仙道、無視?」
「いや違うけど。分かんねえなあって思ってさ」
「…だよね」
はあ、と暗く溜息をつくと、あかりは特大のクリームメロンパンに噛り付いた。顔に似合わず塩辛いものが好きな仙道は、食べ口から溢れんばかりのクリームに、ちょっと胸焼けがした。おそらく自分は一生口にすることのないパンだろう、と内心肩をすくめる。
「…越野も前にそれ食べてたよ」
「ああ、このメロンパン? そうそう。これ購買でも大人気でね。なかなか買えないの」
「へえ…」
仙道は、越野がそれを、屋上のコンクリートに落としたのも気にかけずに美味しそうに頬張っていたことを思い出した。
「でも、越野とあたしって、似てるのは味覚だけ」
「…え?」
「私さ、バド部のみんなから何て言われてるか知ってる?」
「いや?」
「『バド部の仙道』」
あかりが仙道の眼前を人差し指でさしながら、大仰に言った。
「は?」
「仙道にそっくりだって言われてんの。確かに遅刻多いし、委員会とか予算とかたるいの大っ嫌いだけどさあ…なあんか納得いかないなあ。ま、あたしがエースなのは認めるけどねっ!」
さらりと失礼なことを言われたが、明らかに故意ではないだろう。仙道は気にしないで会話を続ける。あかりと越野が気の合うのは、性格が似ているためだと思っていたからだ。同じクラスにもなったことがなく、つまり越野経由でしかあかりを知らない仙道には、間違いなくそう見える。
「でもあかりちゃん、文実とかやってんじゃん」
「そうそう、あれもね、交欠のあいだに決められちゃったんだ。ひどいよね? 仕方ないから、せめて楽しくやりたいって思って、小夜も引き込んじゃったけどさ。仙道だってそういうことあるんじゃない?」
仙道は一年生の時に、「オーラがあるから」という理解しがたい理由で、眠っている間にスポーツ大会の実行委員になっていたことを思い出した。決定した後に眼を覚ました仙道は、勿論、同じクラスだった越野を半ば無理矢理引き入れたのだった。なるほどな、と思う。仙道はあかりをまじまじと見た。そのとき初めて、自分達がランチスペースに居る生徒達からまじまじと見られていることを知った。自分の知名度が高いということを仙道は把握していたのだが、あかりもその類の人間だった。その整った顔立ちと、誰にでもあたりのよい溌剌とした態度で、男女問わず人気があるのだ。
自分もたった今気付いた身だが、こんなふうにあからさまな注目を浴びていてもけろりとしているあかりの姿を見ると、個人競技のバドミントンでも、学校を背負って立つ頼れるエースなのだろうと想像できた。そうして、前にここランチスペースで小夜と二人で話したことを思い出した。仙道は最近では恋人と学校内で二人になることがほとんどない。何やかんやと噂を立てられ、面倒なことになるからだ。さすがに高校に上がってからはなくなったが、中学生の頃は自分の彼女が女子に陰口を叩かれているという話も聞いたことがある。そういうことをひっくるめて避けるため、今は学校の外でしか会わないようにしているのだ。仙道は自分がどのくらい人の眼を引くのかを知っていた。あの部活前のいっときも、自分達は今日のように注目を注がれていたのだろうか。心配になった仙道は思い出そうとしたが、次の瞬間にはその代わりに別のことが思い浮かんでいた。
『最初から叶わない恋をしたら――きっとふられるよりもっとつらい』
兄の恋人を好きになる。その手に抱いたのに、きっと、奈緒はその瞬間にも昌明を想っていたのだろう。それは今もそうだった。越野の恋は、始まることはないのだ。それでも越野は、それしかできなかった。好きな相手が自分以外の人間を想って悲しむとき、自分にできることはほとんどない。ただただ、優しくいたわってやることだけだった。
「仙道お?」
あかりの間延びした声で、仙道は現実に引き戻された。
「今日…ごめんね?」
あかりが顔を覗き込んだ。どうやら神妙な顔をしていたらしい。珍しく人に感情を気取られて、仙道は明るいイエローのスツールに座り直した。あかりが謝る必要はないだろうと思いながら、話題を変える。
「あのさ」
「ん?」
「越野って…」
「ああ、うん」
あかりが待っていたような声で相槌を打った。
「お兄さんと仲いいよな?」
「…え? ああ、うん…」
「いや、こないだ家行ったときに見てさ。仲いいなって思ったっていうだけの話なんだけどな」
言いながら仙道は、この間の北鎌倉での食卓を思い出した。そうしてそれに続くように、その後の部屋での会話や、奈緒との言い合いを思い出す。
『なんつうか…ちょっと、ずるいんだよ。たぶん、相手も自分も、同じだけ可愛いんだと思う』
『"お前は宏と幸せになって"って──そう言われて、別れたの……』
『お前は、奈緒のことも、兄貴のことも同じくらい好きだったのに、それを兄貴が勝手に空回りしただけだろ』
『…それでも俺がいなきゃうまくいってたっ…』
兄は自分で自分の心に嘘をついて弟を気遣い、その気遣いによって弟はもう一年以上も苦しんでいる。仙道には、越野があまりにも不条理な仕打ちを受けているようにしか思えなかった。昌明が自分に誠実になり、今も奈緒と居てくれたら、越野はこんな風に思い悩むことはなかっただろう。少なくとも、仙道の知る越野は、兄の幸せを積極的に壊したりするような人間ではない。昌明のように逃げるのではなく、きちんと自分の気持ちに折り合いをつけて、昌明も奈緒も、同じように大切にしただろう。我を忘れるほどに動揺して、奈緒の肩を掴んで問いただす、あんなことだって無かったはずだ。あんなふうに、涙を流すことも。
仙道は腹の奥底で、怒りのような焦りのような苛立ちが湧き起こるのを感じた。それは昨日も感じたものだったが、今日はそれは胸にまでせり上がって、喉元にきゅうと触れていく。霞のように胸に漂うのは、怒りや焦りではない、別のものだ。越野の涙を見たときに感じた、どうしようもないほどの痛みを追体験しているようだ。仙道は言葉にし難い感情に、歯を噛み締める。
「……あそこはね」
仙道の質問に何か思うことがあったのかしばし押し黙っていたあかりが、小さな声で口を開いた。
「あそこは、お互いがお互いに遠慮しすぎて、二人ともが駄目になってる」
「……」
仙道が黙ってあかりを見ると、あかりは仙道がするように眉を八の字にして少し笑った。
「ま、ブラコン同士って感じじゃないかな」
「ブラコンかあ」
「見えないけどね」
「……よく知ってるんだね」
「……」
「仲良いよな。俺最初、二人が付き合ってるのかと思ったよ」
「確かに相性はいいけどね」
茶化すように笑ったあかりはひとつ息をつくと、イエローのスツールから立ち上がって、スカートのしわをを直す。仙道は、背もたれに背中を預けた。それを見下ろしながら、あかりが言う。
「とりあえず決勝。頑張ろうね。色々あるけど」
「…そうだな。お互いに」
笑顔を見せて振り返ると、あかりはランチスペースを出て行った。背筋のピンと伸びた、短いスカートをはためかせて歩く後姿をぼおっと眺めながら、仙道は固いプラスティックのスツールにずるずると首まで預けた。
「あー…」
仙道はだるそうに、喉から声を出した。自分は一体何をやっているのだろう。最後の言葉は、今日の朝越野に言ったばかりだ。そもそも本題はそこではないはずなのに、一体何をしているのだろう。まるで二人をやっかんでいるような自分の言葉に、仙道は辟易した。越野のことになると、好奇心が勝ち過ぎるのだろうか。
「……色々ある、よな」
窓の向こうでは、ぽつり、と雨が降り出した。梅雨の湿り気が、仙道の首筋から入り込んだ。