アブソリュート・ブルー 3

「何か飲む?」
「いや、いらねー、ていうか」
「ん」
「昨日の」
「ああ、もう話すの?」
 おどけた体でそう言えば、越野が少しむっとして仙道は見る。茶化したことに対して、悪い、と言う代わりに肩をすくめ、冷蔵庫からペットボトルの烏龍茶を取り出した。
「仙道お前、怒ってねえのかよ」
「…怒ってねえよ。俺が奈緒にそういうテンションじゃねえの知ってんだろ」
 タポタポと注ぎながら淡々と答える仙道に、越野が一瞬口ごもる。
「…。それは、知ってっけど」
「越野と浮気してるとは思わなかったけどな」
「…っ、んなわけねえだろアホ!」
 一人暮らしにはいささか豪奢なカウンターにグラスを置きながら仙道が叩いた軽口に、越野がやや声を荒げて立ち上がった。ふ、と仙道が噴き出すと、越野がしまったと小さく舌打ちをする。いつもとは逆で、今日は自分に分が無いことに気付いたようである。憮然とした態度で、仙道が茶を注いだ二個のグラスをテーブルに置いた。
「中学んときからの、知り合いなんだよ」
「へえ。 あれ…でも同中じゃねえよな?」
「いや、違うけど…塾が一緒でさ」
「…越野、塾なんて行ってたんだ」
 仙道は意外だと問い返す。
「バスケ部のキャプテンだったんだろ?」
「ああ、まあ、冬季講習だけだけど。兄ちゃんが丁度そこで講師してたんだよ。そこでまあ、奈…前田と仲良くなってさ」
「奈緒でいいだろ」
「奈緒…あいつ、結構うちの家族とも仲良くてさ。うち爺ちゃん婆ちゃんも隠居暮らしだし、母親もあれだろ? だから奈緒も懐いてて、うちにもしょっちゅう遊びに来てたな」
 仙道は、去年の合宿前にドリンクを差し入れに来た越野の母を思い出した。顔のつくりは越野とそっくりだったが、にこにこ人好きのする笑顔を振りまきながら、とにかく世話を焼くのが性分のようだった。越野母の性格は頷けるが、しかしながら、奈緒が人に「懐き」、越野家の人々と親密な関係性を結んでいたという話のほうは、仙道にとって少なからず驚嘆すべき事実だった。
「…想像できねえけど」
「…そうだろうな。俺らが仲良くなる前も、奈緒は今みたいな顔してた。もともと、感情がツラに出ない──出せないやつなんだ」
「…ふうん」
 「出せない」の部分を殊更、確かめるような言い方で越野が口にする。前田奈緒のことを分かりきっているかのように話すのが、仙道にとってはまだいくらか非現実的な出来事のように思えた。ずいぶん仲が良かったのだろうが、それを越野に言えば皮肉のようになりそうなので、仙道はやめておいた。
「だったら、何で今は? あっちは逃げるし、越野はわざわざ『前田』なんて呼んでるし」
「…高校入る頃から、連絡取らなくなったんだよ」
「何で?」
「知らねえ」
 越野が早口で言った。知らない筈がない応答だったが、仙道はわざと聞き逃した。仙道は洞察力に聡いほうである。そのときにはもう、越野の感情のベクトルを行方を直感的に理解しつつあった。
「ふうん」
「まあ、気まずいっつうか、何つうか…」
「付き合ってた?」
「……、いや。付き合ってねえ。まじで」
 越野の声は弁解じみていた。
「じゃあ好きだったか」
「……」
 まるで尋問されている容疑者のように、哀れにも越野が押し黙った。その態度に、仙道は自分の過ぎた理解を申し訳なく感じた。奈緒に対しての執着は、自分には無いと仙道は思う。だから、質問の理由はただの好奇心だという、そんな他意の無さだけが仙道の免罪符だった。それなのに、越野の過去を暴くことに、仙道はやはり漠然としたうしろ暗さを感じていたのだった。
「……好き、だった、かも」
 仙道の問いに対しての答えはそこまでで、続く言葉は、ほとんど独り言のようだった。
「でも、もしかしたら俺が、……」
「……なんの話?」
「……」
 それきり越野はなにも言わなかった。次に口を開いたときは、越野は今の越野に戻っていた。最後に付け加えるように、
「とりあえず、仙道にやましいことは何もねえから!」
 とだけ言い放って、その日は帰っていった。初めからすねに傷を持つ必要なんてないのに、と仙道は思う。しかし越野と奈緒の中でその問題は、もう少し複雑であるようだった。交錯した過去と現在を前にして、仙道はいささか興味が湧いていた。他人に対して深く介入しないという仙道の信条を、まったく覆す出来事という点で、それは新鮮だった。
『絶対に叶わない恋をしたら、きっと、ふられるよりもっとつらい』
 仙道は小夜の言葉を思い出した。仙道は直感的に思う。越野は、今も、叶わない恋をしているのかもしれなかった。

 陵南高校はシード校なので、ブロック予選では決勝の四回戦のみである。ゆっくりと、しかし確実に夏へと移ろう五月も終わりの季節は、今や、梅雨の走りのような湿った海風を漂わせていた。ふわあ、とあくびをして、仙道は屋上から空を見上げた。晴れては居ないが、曇ってもいない。梅雨に入る前のせめてもの足掻きのような色だ。じきに、がちゃり、と音をたてて、越野が屋上に上がってきた。手には丸く膨らんだビニール袋と携帯電話を持っていた。携帯をどこにでも持って行く最近の流行りを越野は「依存症じゃねえの!」と否定していたものだが、このごろは部活関係の連絡や後輩からの相談もあるといって、世間の高校生がそうであるように、あまり手放さない。
「うわー、微妙な天気だな」
「雨は降らねえと思う」
「あ、これ昼飯」
「サンキュー」
 越野は、がさがさとビニール袋からパンやおにぎりや紙パックの牛乳を取り出して、仙道の前に放った。仙道は食に関してのこだわりがないに等しいため、かなりの頻度で越野が代わりに調達している。購買の混雑に仙道の大きな身体で挑むのが、どうにも気が引けるからだ。傍から見れば、そういった世話焼き様が、越野が「仙道係」と形容される所以でもあったのだが、当の本人は、引き換えに仙道が奢るジュース一本で十二分に満足しているようだった。もともと動き回るのが苦にならない性分である。
「岡辺達は?」
「文実」
 文実とは文化祭実行委員会のことで、あかりが自分のクラスの実行委員長になったと言って、小夜にも立候補するように勧めていたのを仙道は思い出した。一度に沢山の仕事を同時にこなすタイプのあかりと越野はどことなく似ている、と仙道はそう思いながら、越野が購入した焼きソバパンのラップをぴりぴりと破いた。
「湘北やべえな」
「ん?」
「お前が…あ」
 越野がメロンパンの袋を開けながら口を開いた。しかし越野の余りある腕力で、メロンパンは勢いよく飛び出し、コンクリートに落ちたが、越野は何もなかったように拾ってかぶりついた。
「お前が目えつけただけあるよな」
「ああ、きっと決勝まで残る。いいチームだよ」
「それは認めるけどよ。……あの赤ザルだけは許せねえ」
 越野が憎々しげにそう言った途端、仙道がぶっと噴き出した。おにぎりを具ごと吐き出しそうになりながら、口の中だけでくつくつと笑う。
「てめえ…」
「わり…悪ィ。でも、越野にぴったりだったじゃん…あははは!」
「ざけんな! 誰が…こ、小僧だよ!」
「だから越野だって」
 仙道が桜木の行動をいちいち思い出して笑っていると、越野がちょっと黙り込んだ。怒っているのかと思って顔を覗きこむと、少し唇を噛んで、また口を開いた。
「俺は…宮城リョータを止める」
「うん」
「……」
 仙道の短い応答が不服なのか、越野はちょっと眉をひそめて仙道を見た。
「止めてもらわねえと困る。神奈川では、陵南のガードで通ってんだろ?」
「……今プレッシャーをかけるかよ」
「じゃあ越野は、『今』、マッチアップを不安に思うのか? それこそ今更だ」
「不安って訳じゃ」
「プレッシャーだと思うのはそのせいでしょ」
「あーもう分ーかったよ! 情けねえこと言って悪かった!」 
 ぱん、と手のひらで両頬を叩いて、越野が思い切りよく言い放った。仙道はふ、と息をついて、にこりと笑う。安心の笑みだった。仙道はことバスケットに対する越野のモチベーションに関しては、これ以上ないほど信頼を置いていた。この一年で分かったことは、越野の価値観や判断基準がずいぶんとしっかりしているということだ。桜木花道に『小僧』と言われるような無邪気な風貌を持つ彼だったが、中身は事の外、それとは相対している。そうでなければ本来仙道は、人が買ってきたパンを口にしたりすることはない。そもそも、今では何気なく見せる小夜やあかりへの信頼も、越野を通して培っていった部分が多くがあったのだ。
「そういやさ、仙道」
「ん?」
「こないだお前んちに泊まったお礼に、うちに遊びに来いだってさ」
「お母さんが?」
「あと兄ちゃんと、みども」
「お姉さんも?」
 みど、とは越野のお姉さんの碧のことで、越野が何度かそう呼ぶのを仙道は聞いていた。歳が十歳も離れているせいで、越野の姉兄は彼に甘いという。
「ああ、ファンなんだってさ。まあ、気持ちも分かるけどな。兄ちゃんも会ってみたいって」
「一度正門で見たけど、あんまり似てなかった」
「ああ。なんつーか、ぼおっとしてるっつーか、鈍感つーか」
「見た目の話だけどな」
「あ、そっか。見た目もそうだけど。でかいけどフェアリー系?」
 そんな感じだ、と仙道はぼんやりとその姿を思い出した。
「土曜は? 午後オフだから、 ちょっと自主練した後、うち来れば」
「ああ、そうしよっかな」
 うし、と言って越野が笑った。目を細めたその顔に、僅かに雲の隙間から鈍い光が差し込んだ。見慣れた笑顔にデジャヴを感じて、仙道は軽く目瞬きをした。



 *



 陵南の練習はとにかく厳しい。厳しい、という概念にもタイプがあるが、この高校のそれは、練習の段階のひとつひとつに求めるレヴェルが高いということである。アップのランニングからダウンのストレッチまで、精度の高い、他校よりも過酷な方法を、監督の田岡茂一は要求するのである。毎日の練習が、翌日の回復の限度、あるいはそれ以上のカロリーを消費するものであるため、陵南高校のバスケ部は、試験休みなどの他にも月に三日以上のオフがある。伸び盛りの高校生の身体は、遮二無二痛めつけることだけでは決して充足しないことを、スポーツ科学に明るい彼は熟知していたのである。例に漏れず、今日の土曜日の午後いっぱいは、切れた筋繊維を回復させるだけの休息が与えられた。
「ああ、やっとオフだあ」
 明治が情けない声を上げて部室のベンチに座りこんだ。着替えもそこそこに背をもたれる彼に、ふう、と福田が呆れたような息をついた。それを見て明治がぶーぶーと、分かりやすい非難の声をあげる。
「なんだよフク、いいじゃねえかよお。俺今日のディフェンス練、お前以上に茂一にしごかれたんだぜえ」
「…俺は上達したからな」
「たまたま、たまたま。あー今日何すっかなあ」
 福田と明治のこんな掛け合いをBGMに、仙道は珍しく早くに着替えを済ませていた。勿論、二日前に越野と交わした約束のためである。人の家に行くということで、いつもより念入りにシャワーを浴びた。
「あれ、越野は?」
 いそいそと着替えをしていたために、越野がその場に居ないことに気付かなかった。誰にともなく呟いた質問に、隣に居た植草が親切に答えた。
「あ、さっき携帯持って出てったよ。荷物あるし、すぐ戻るんじゃない」
 一瞬、越野が自分を置いて先に帰ってしまったという不安に駆られた仙道は、幾分ほっとした。タイミング良くそのとき、越野が部室のドアから顔を覗かせた。荷物をドラムバッグに詰め込み終わった仙道を見て、お、と驚いたような顔をする。
「なに仙道、早えな。絶対まだシャワーだと思ってたのに」
「俺だってね、やればできんだよ」
「じゃあいつもやれよ、バカ」
 笑いながら軽口を叩き、越野もドラムバッグを肩にかける。そのとき部室に、池上と魚住が入ってきた。越野が壁際に寄り通路を空けた。
「あ、おつかれーッス」
「おつかれさん」
 池上が笑いながら声を返す。
「すいません、俺ら先上がっちゃって」
「ああ、いんだよ。練習してたわけじゃねえしな」
 練習のあと、二人は田岡と予算について少し話をしていたのだった。体育会系の部活といっても当然、煩雑な事務作業は部長と副部長のルーティンワークである。主に池上が事務処理を、魚住が予算会議などでの顔を担っていた。魚住はあれで、渉外能力には長けているのである。
「大変ッスね」
「茂一は細かいからな。でも、来年からはお前の仕事だぞ?」
「……!」
 越野が少し驚いたように目を見開いて池上を見た。自分のロッカーの前にいた魚住が振り返って、入り口近くの二人の方を向いた。自然と、他の部員達の視線もそこへ集まる。なんとなく、傾聴する雰囲気だということは仙道にも分かった。
「俺らが引退したら、次の副部長はお前だ、越野」
「……」
「お前ならやれるって、皆思ってる」
「……はい」
「ま……そんで、お前は相変わらず仙道のお守りをしなきゃいけねえってわけだけどな」
 改まった越野に、池上は相好を崩して仙道を見た。目があって、仙道はちょっと肩をすくめる。部員達も今や全員が仙道を見ていた。こういった体育会系独特のシチュエーションが嫌いというわけではない。けれども、自分がこの場面を作り上げている一員だということには、仙道はいつでも違和感を覚えざるを得なかった。
「…引退はまだ早いっすよ」
「当然だ」
 仙道がそれらしいことを言うと、魚住が重々しく、けれどどことなくユーモラスに返した。ははは、と池上が笑う。それを契機に、静かに耳を傾けていた部員達が声を取り戻して、部室はいつもと同じ雰囲気に戻って行った。仙道は気になって越野の表情を確かめる。池上と笑って話していたのを見て、ひっそりと安心の息をついた。

 越野の家は、庭が綺麗に整えられた日本家屋だった。玄関の戸が、カラカラカラ、とノスタルジックな音を立てることにすら、マンション住まいの経験しかなかった仙道は内心驚いた。
「ただいまあ、おーい母ちゃーん」
「おかえり! いやだ宏、母ちゃんなんて呼ばないでよ、仙道君の前で」
「お邪魔します」
 仙道がぺこりと頭を下げると、越野母がにっこりと笑って、真新しい二人分のスリッパを出した。靴を脱ぐと靴下に穴が空いていたので、仙道はそれをそそくさと脱いだ。玄関からちょっと入ったところで、二階からトントンと急ぎ足で降りてくる音がした。
「あ、ひろちゃん仙道君連れてきたの? こんにちは! ちょっとー、かっこいいねやっぱり」
 大声で話しながら歩いてくる姿に、仙道は少し面食らった。一目で姉の碧だと分かる。母親もそうだが、この姉の見た目は、きわめて弟にそっくりだったからだ。気の強そうな吊り眼や、艶のある黒髪、しっかりした肩口がとりわけよく似ている。
「こんにちは、…みどりさん?」
「わっ! 名前呼ばれちゃったわ、ひろちゃん。旦那さえ最近呼んでくれないのに」
「こいつは女とあらば口説くからな、気を付けろみど」
 お母さんの前で何てことを言うんだ、と仙道は眼を白黒させたが、母親は特に気にしないでからから笑って仙道を迎え入れた。廊下は木の匂いがして、仙道は物珍しい思いで茶の間に上がる。
「あれ、兄ちゃんは?」
「お寿司頼んだのよ、お昼まだでしょ? もうすぐ帰ってくると思うけど…あら」
 カラカラ、とまた玄関を開ける音がして、のんきそうな足音と共に、開け放った茶の間の戸のあいだから黒縁メガネが顔を覗かせた。
「あ、もう仙道君来てたんだ。いらっしゃい」
「あ、お邪魔してます」
「昌、あんた『すし常』に行くのに何分かかるのよ。まさかお寿司持ってそこらをほっつき歩いてたわけじゃないでしょうね?」
 越野母が、せかせかと昌明から袋を取り上げながら、早口でもっともなことを言った。
「えー? 大丈夫だよ、それは今取ってきたばっかだから」
 けれど昌明がそんな言葉を返した頃には、母親はさっさと台所へ姿を消してしまっていた。
「仙道、このボーっとした人が兄ちゃんな。みどが一番上で、その次」
「ひどいなあ。仙道君、いつも弟がお世話になってます」
 昌明が茶の間の大きな木のローテーブルの前に座りながら挨拶をした。
「世話してやってんだよ、俺が、こいつを」
「そんなこと言って。仙道君がすごいすごいって、毎日言ってんじゃないあんた」
 にやにやしながらそう言って、碧が手際よく四人分の茶を居れた。
「仙道の『プレイ』がだ! こいつこないだの練習試合も遅刻したんだぜ? 堂々と『寝坊です』って、信じらんねーよ」
 仙道が肩をすくめると、昌明がくすくす笑った。
「おれも高校時代はよっく遅刻してたなあ」
「今もでしょ、昌は」
 碧がぴしゃりと言った。
「…大学院生なんすよね? お兄さん」
「そうそう、筑波の大学でね。何かおれ、研究しかできないみたいだからさ」
 仙道の質問に、はははと情けなさそうに笑って昌明が答える。
「『越野君が学会に来ないんですけど』って、兄ちゃんの教授からうちに電話来たんだぜ、こないだ」
「目覚ましをね、かけ忘れちゃったんだよ…」
「緊張感のないとこ、お前とそっくりだよ」
 越野が隣の仙道を見てふっと笑った。さっきは姉と瓜二つだと思ったが、笑った顔は男の越野の方が印象が柔らかいような気がした。対して兄の昌明は、上から下まで宏明とは大違いだった。仙道と比べれば10センチほど小さいが、それでもひょろりと高い背に、やや撫ぜ肩の体格。髪の毛は天然パーマなのだろうか、ふんわりと長めに下ろしたのを、茶色く染め上げている。何よりも、とろりとした二重の垂れ眼だった。黒縁のメガネがかろうじて、春の陽気のような昌明の顔を引き締める効果を与えている。
「おれ、大学まではこっちにいたんだけどね。みどがお嫁に行ってからは、ずっと宏に世話焼かれっぱなしでさ」
「そうね、昌はひろちゃんのおかげで単位とれたようなもんよね」
「そうそう。果ては恋愛相談までしちゃう始末でさ。どっちが弟だか分かんないよ」
 くしゃくしゃの髪を大きな手で掻きながら、目尻にしわを寄せてにへら、と笑う姿に、自分はもう少しきりりとしている、と仙道はひっそり思う。
「おい、仙道困ってんだろ。身内の恥をさらすのはやめろよって」
 越野が興味なさそうに言ったとき、大きな盆に載せられた寿司とお吸い物が茶の間に到着した。久しぶりに食べる豪華な昼食に、育ち盛りの高校男児ある仙道は思わず唾を飲み込んだ。