新着メールあり
「ノブ」
「……」
「……あれ。寝ちゃったの」
特番のドキュメンタリーに珍しく熱中していたら、うしろのベッドで猫のように丸まって、信長がすうすうと寝息を立てている。神はテレビの音量を小さくすると、くるりと振り返ってその寝顔を覗き込んだ。室内競技だから日に焼けてはいないけれど、ほどよく健康的でさらりとした肌に、ちょこんと右手で触れた。口を少し開けて小さく息をする信長の、冬の空気に少し乾いた唇に、その右親指をつつと運んだ。そのまま、ほんの少し触れるだけのキスをする。
「ん〜…」
子どもがぐずるように眉をひそめるその顔に、神はちょっと笑う。調子に乗って2,3度頬をつつけば、うにゃうにゃと、判別のつかない寝言を言うから、また小さく吹き出した。
「ノブ、まだ九時だよ」
神は眉尻を下げ、少し首を傾げて呟いた。
「……久しぶりの休みなんだよ?」
ベッドの端に顎を乗せてそう言いつつも、その声は内緒話のようなひそやかさで、信長を起こすには至らなかった。神はちょっと溜息をつくと、またテレビの方に向き直って、手持ち無沙汰に部屋を眺めた。テーブルの上には、二人の携帯電話が並んで置いてある。その色も機種も違うけれど、ストラップは揃いでつけている。なにかお揃いのものを、と、何の衒いも無くねだる信長の無邪気さに浮かされて、恥ずかしげも無く小町通りの雑貨屋で買った。その日のことを思い出して、神は今更顔の熱くなる思いがした。
感情があまり表に出ないたちだけれど、と神は思う。本当はいつだって清田の一挙手一投足に、心臓を掴まれ、背中を焼かれて、喉元をちりちりさせられているのは自分の方なのだ。
「……」
神は自分の携帯電話を取って、パカリと開ける。すこし考えて、メールを打った。送信完了のメッセージが出て3秒後に、すぐ前にあった信長の携帯電話のバイヴレイションが音を立てた。
ヴヴヴヴヴ、ヴヴヴヴヴ。
「──はれ? あ、でんわ…」
メールを伝えるその音はすぐに止んだが、信長はその音に眼を覚ましたようだ。
「俺のだよ。ごめん、起こしちゃった?」
「あ、おれ…寝ちゃってたんですね…ごめんなさい」
「疲れてるんだったら、寝てもいいんだよ」
神は飄々と言いながらまた振り返って、信長の顔に貼り付いた髪を手で梳いた。のっそりと起き上がった信長だったが、寝起きだから、まるでまだ夢のなかに居るように眼を閉じている。
「ん…やだ、寝ません。神さんと一緒じゃなきゃ」
「ふうん?」
してやったという顔でにこにこと笑いながら、神はテレビの電源を切って、スプリングのベッドへ腰をかけた。
――じつのところ、きみに勝てたと思ったことがない僕だから。だから、たまには主導権を握らせて欲しい、乱してみたい、揺らしてみたい。どれほど僕を右往左往させているかなんて、きっと気付いていないきみだけれど。
「テレビに神さんとられて、悔しかったんすよ」
キスをしながら吐息でそんなことを言うから、神はまた気持ちのどこかがぎゅっとして、思わず信長を抱き締めた。えへへ、と嬉しそうに信長が笑う。暗くなった部屋の真ん中で、今はまだ信長の携帯電話のLEDだけが、神の真意を訳知り顔で伝えていた。
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▼11/24日 21:14
from:神さん
title:(no title)
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起こしてごめん。
寝てるノブも好きだけ
ど、もっと一緒に居た
いんだ。
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[end.]